復権
「復権」という言葉を辞書で引くと、失ったものを取り戻すこと、とあります。
元は法律用語で、自己破産した人などが失った権利を回復すること、有罪判決を受けた人が失った資格を、恩赦の一環で取り戻すこと、などの意味もあるよう。力強い言葉、ですね。
この夏、西表島に行きました。海と空が優しかった
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この言葉を意識したのは、ベネッセという会社に勤めていたときに、瀬戸内国際芸術祭というトリエンナーレに立ち会ったときのこと。3年に一度、香川県直島を中心に、瀬戸内海十数の島々を舞台に繰り広げられる現代アートの祭典で、「海の復権」がテーマとなっていたことがありました。
自然豊かで穏やかな内海に囲まれた島々は、近代以降、政治的には隔離・分断され、工業化に伴う資源採掘などで荒れ果て、産業廃棄物の不法投棄や環境汚染に苦しむという悲しい歴史を背負っています。
これらの島々を現代アートの力で元気づけられないかと、ベネッセ(当時、福武書店)の創業者、福武総一郎氏の発案によって、建築家の安藤忠雄氏やそれに賛同するアーティストたちが集まり、その土地に根差した作品を手がけ、島民たちと力を合わせて祭典を盛り上げるようになります。今では会期中、世界中から100万人以上の来訪者で賑わうまでになりました。その後、新潟の越後妻有「大地の芸術祭」や札幌「札幌国際芸術祭」など、地域資源を活用し、現代アートの力でよみがえらせようという取り組みが続くようになったのも、この芸術祭が一躍脚光を浴びたのがきっかけでした。
海は、復権を果たしたろうと思います。
去年、仲間とともに言った直島
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この言葉を思い出すきっかけとなったのは、とある記者との会話。彼女とは年齢も近く、考え方もちょっと似たところがあって、仕事のパートナーという関係を越えた何かシンパシーのようなものを感じていました(私が勝手に)。
久々に会う機会があり、仕事上の話から私生活まで、いろいろと語りつくせぬ思いを交換する中で、家族の話になりました。長女(長男)、一人っ子は親の愛をひとり占めして伸び伸び生きているけれど、次女(次男)は長女の存在が必ず先にあり、どちらかというとガマンすることが多かったと。
振り返ってみると、三女である私も、姉からしたら自由気ままに育っていいよねと言われるのですが、常に大人たちの顔色を見て育った気がします。いつも家族の中心に自分がいて、何か注目を集めることをすると喜ばれる。そうすると、また嬉しいから、喜んでもらえるようなことをする。自分の行動のモチベーションが、「周り」という環境にありました。周りの期待に応えるのは得意ですが、普段、それを意識することはありません。
西表島から由布島に渡りました。ただひたすらに、私たちの乗った荷車をひく水牛の姿に、得も言われぬ感覚を覚えました
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そして、そういう人が苦手なことって、自分が本当は何をしたいか(したくないか)を自覚することで、いざ、自由な好きにしていいよと言われても、自分が本当に心から楽しめることって何だろう?って考え込んでしまいまいます。
恋愛でも自分がどうしてほしいかより、相手が何を求めているかをまず考える。相手の期待に応えるのは得意だけど、自分がしてほしいことが何かを気づくことも難しいし、何かそういうものがあったとしても、切り出すのが苦手。迷ったら、自分が身を引くことを選びます。
とまあ、そんな生き方が板についているわけですが、記者との話に戻ると、彼女もそんな背景はありつつも、最近は忙しい仕事がひと段落つく週末には、自分が本当に好きだったことに費やす時間を「取り戻して」いるのだそう。
映画や音楽が好きだから、映画館に行ったり自宅で音楽を聴いて過ごしたり、とにかく自分が心から楽しめるものを、誰の気兼ねもなくする。そう語る彼女の姿がとっても素敵でかっこよくて、まさに私も、その感覚を取り戻したいってずっと心の奥底で感じていたのを、言語化してもらったような気持ちになりました。
生涯を通じて、人は何かを手に入れ、何かを手放していくのだと思います。そうすることで人生のバランスをとっているのかもしれません。自分の元に取り戻したいものが何なのか、見つけられた人は強い。
これまでは、周りの期待に応えることに全力で向き合ってきましたが(それでよかったと思っています)、これからの人生では自分の期待にも応えることで、自分の心が喜ぶことも大切にしていきたいです。失った自分らしさを取り戻すような感覚、でしょうか。幸せそうに見える誰かをうらやむのではなく、自分で自分を幸せにしなければと思います。まずは、心から楽しいと思えることを思い出して、楽しむところからですね!
台風24号の影響で、船だけでなく飛行機も欠航になるということで、西表島から慌てて荷物をまとめて飛び出しました
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遅めの夏休みも今日で終わり。
職場の皆さんのご協力のおかげで、リフレッシュすることができました。感謝!
今日はあいにくの台風の影響で、約束していたランチと夜の約束をやむなくキャンセルしました。とても会いたかった人たちなので残念ですが、また次に会える楽しみができたということで、おうちでのんびり過ごします。
さて、来週から気持ちを入れ替えて、頑張りますかね!
今日もとりとめもない話にお付き合いくださり、ありがとうございました。