大企業とベンチャー、働くならどっち?(おまけ:役所はどう?)
今日はコーポレートブランドに関する勉強会で、100年以上の歴史をもつ企業からお話を伺いました。組織が大きくなればなるほど、社内にはいろいろな意見があって、その利害関係を調整して物事を進めるのは容易ではありません。たとえばブランド一つ取ってみても、組織的に合議的にならざるを得ないことで、特徴が打ち出しづらくなったり、長年続けてきたことを簡単には変えられなかったり、逆に新しいことを簡単には始められなかったり、いろいろです。
私は大企業や大組織が長かったこともあり、大企業の担当者の悩みにいたく共感する反面、ベンチャー企業から見えるもどかしさみたいなものを感じたりもします。今日はそんな流れから、働く組織による違いを個人的見解から振り返ってみます。大企業、ベンチャー、おまけとして役所の体験にも触れてみます。
丸の内で働いていたこともありました。
大企業のメリット
・圧倒的な社会的信頼と知名度がある
・優秀な人材層が分厚い
・世の中に大きなインパクトを与える仕事に携われる
大企業のデメリット
・意思決定に時間を要する
・社内調整が大変
・仕事のための仕事が多い
所感
メリットですが、広報・IRという、社外の人と接する仕事ということもあり、ベンチャーに転職した今、大企業の看板(ネームバリュー)で仕事ができることはアドバンテージだったと思います。電話をするとき、名刺交換をするとき、相手にされないということはまずありませんからね。また、知名度のある会社は優秀な人を集めやすく、組織の成熟度というか、仕事のレベルが高かったとも思います。加えて、市場に大きなインパクトを与えるような仕事、世の中に大きな変化を与えられる仕事に携われるという醍醐味もあります。たとえ、その一部にしか貢献できていないとしても、です。就職先について、家族や友人に安心してもらえ、身分を明かすようなシーンでも、信頼を得られるという点は社会からの信頼を積み重ねてきた大企業ならではと言えます。
他方のデメリットはやはり、仕事を進めるスピード感です。例えば稟議。上長、部門長の判子リレーを経て、部外や役員へと稟議が回ります。私がつまづいたことといえば、判子を押す台紙に書き添えたメモに、「ご確認をお願いします」と書いたときのこと。稟議を見た次長が飛んできて、「忙しい部長に大量の資料を確認させるとは何事だ!」とお叱りを受けたことがあります。正しくは「ご査印ください」だそう。逆に、何も見ないで判子ちょうだいの方がよっぽど失礼では・・と思うのですが、無論、反論の余地はありません。また、「俺は聞いてない」というのが一番面倒なので、関連する部署・関係者への根回しをきちんとしたり、社内メールの宛先は役職順に正しく入れるなど、細かいところにも注意が必要です。
仕事のための仕事で思い出すのが、メールの書き方が社内規則で定められている企業で働いていたときのこと。他部署宛ては文頭に「XX部○○殿」と書かなければならないところを、つい出来心で「XX部 ○○さん」と書いてしまったことがあります。すると大変、CCに入っていた次長が飛んできて、「さんになっているぞ、どういうことだ!?」と部内の隅でこっぴどく叱られたことがありました。他にも、社内会議のための資料準備がえらい大変だったり、誰も読まないだろう議事録、報告書を作り続けるなど、ベンチャーで働く今は想像もつかないような仕事をしていました。
福利厚生や条件面での手厚さも大企業に分があります。過去に勤めた大企業の同い年の友人と比べると、年収で200万以上の差があります。もちろん、業務負荷や責任が単純には比較できないので、どっちがいいという判断はできませんが、ベンチャーにその給与を支払う余力はなかろうとも思います。
もう一つ、圧倒的な社会的信頼があるからこそ、それを維持するために相当なコストがかかっているのも大企業の特徴です。それでいて、失うときのあっけなさ、毀損した信頼・ブランドを取り戻すことの大変さも大企業ならではでしょう。この辺りの経験は、またの機会に書いてみます。
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ベンチャーのメリット
・社長や役員へのアクセスが断然早くて楽
・社内コミュニケーションの手間が少ない
・仕事の枠組みを決められる
ベンチャーのデメリット
・社会的信頼がない
・予算がない
・仕事が積み上がらない
所感
圧倒的なメリットとして、トップへのアクセスのしやすさがまず思いつきます。社長への取材依頼、役員への相談なども「今お時間ありますか?」と声をかければ済みます。スピード感の差は歴然です。また、前述のように、社内メールでの調整に苦労することもなく、基本的にはslackというチャットツールでさくっと会話できます。ワンフロアで見渡せる距離なので、対面コミュニケーションも楽です。(エンジニアは集中して仕事をしている人が多いので、まずはチャット連絡、その後声かけなどの配慮はします)
今の会社では広報経験者として体制整備を行ったこともあり、仕事の枠組みを自分で決められることにはやりがいを感じます。何をするにも社内規則やルールで縛られていた大組織と違い、会社の置かれている状況を確認し、方針と運用ルールを決めたら、あとはそれをひたすら回すだけ。想定が違ったら修正してまた回す。仕事がシンプルですね。
デメリットについて。社外と接する仕事ということもあり、会社の知名度が大きな意味を持つことを痛感しました。例えば、新しくメディア開拓をする際、代表電話からかけてガチャ切りされたことも。その後、問い合わせフォームからフォローのメールを送るも、返信はありません。過去の自分は企業の名前で仕事ができていたことを思い知った瞬間でした。
最近はスタートアップでも広報機能の重要性をトップ自らが強く認識し、力を入れているケースも増えてきましたが、ベンチャーは広報に割りあてる予算が少ないのが一般的です。私も、入社早々、デジタルカメラの購入に際し、なぜiPhoneのカメラではダメなのか、なぜその機種を買うのか、広報活動をレベルアップする上でデジカメがどう貢献するのかを、社長に熱くプレゼンするよう求められました。考えようによっては、お金ではなく知恵を絞るクセがついたので、良いことかもしれません。
ベンチャーは組織が未整備で、細かく議事録をとったり言質を取って仕事を進めることがないので、柔軟であることが一つのメリットです。ただ、大企業で積み上げ型の働き方をしてきた身としては、戸惑うことがあるのも事実。言ったことを覚えていなかったり、方針がぶれるケースがままあり、無駄に記憶力がよいことが裏目に出ます。時々、何を信じてどこに向かえばいいか、わからなくなることもありますが、細かいことを気にしなくて良い、という点においてはメリットかもしれません。
このほか、仕事を回すスピードが速いせいか、人の回転も速い印象です。感覚的には大企業の3倍速くらいでしょうか(え、そんなに速くない?)。とはいえ、スピードと勢いで回しているので、仕事に関しては雑になっていることも否めません。
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以下、番外編として、役所の経験も振り返ってみます。私が新卒、行政職で働いていたのは、内閣府という組織です。すべての行政機関を代表するわけではありませんので、あくまでも一つの個人的見解です。
役所(中央省庁)のメリット
・国内外の政府要人や皇室関係者などの公務に携われる
・国の枠組みづくりを担うという誇りとやりがいがある
・ステークホルダーは全国民、スケールが大きい
役所(中央省庁)のデメリット
・官僚的組織での意思決定がムダに遅い
・自浄作用が働きにくい
・公僕という大義名分?のもとに長時間労働が強いられる
所感
公務員として働いていたときの一番のメリットは、誇りだったように思います。この国を良くしたいと言う気持ちが、こんな私にも少なからずありました。反面、役に立てているだろうかという迷いや焦りとも、常に背中合わせでした。当時から広報(政府広報)の仕事に従事していたこともあり、総理大臣の出演するラジオ番組や天皇陛下、皇太子殿下がご臨席する国際会議運営などに従事することができました。これはやはり、民間企業ではなかなか経験することのできない貴重な経験だったと思います。
他方、理想が高すぎたのか勢い余り過ぎていたのか、「あるべき論では仕事は回らない」と諭されることが多々ありした。個人的に一番残念だったのは、「役人の報酬は苦痛の対価である」という考え方です(みんながみんな、そう思っているわけではありません)。無根拠に仕事は面白いものであるはず!と思っていた(思いたかった)私は、3年で役所を辞めることとなりました。ちなみに、公務員には「クビ」という概念が基本的にはないので、毎月の雇用保険も支払いませんし、身分としては一番安定しているのはご存じの通りです。
今でも時々、同期とは飲みに行ったりします。辞める人が少ないので、私が役人に向かなかったのだと思います。もし公務員を目指されている方がいらっしゃったら、どうぞ夢を諦めないでください。
最後になりますが、世の中には意思決定の早い大企業もありますし、社会での知名度が高く、ダイナミックな仕事ができるベンチャーもあります。行政でも、先進的な政令市などでは、予算を節約したら翌年の予算が上乗せされるなど特異な事例もあります。繰り返しになりますが、それらを否定するものではないことをご理解ください。
今から数年前、ちょうどベンチャー企業に転職したばかりの頃、「徹底比較する大企業 vs ベンチャー企業でのキャリア」というセミナーに参加したことがあります。大企業にもベンチャーにも、メリット&デメリットがあるので、自分がどちらの組織で働くことが幸せかを見極めたいですね。
将来、フリーで働いたり、万が一にも起業することがあれば、働き方のオプションにプラスして、記事を書いてみようと思います。